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EV業界、規模の経済力から規模の競争力へのパラダイムシフト

中国政府によると2021年のEV乗用車の輸出台数は20年比で約3倍の49万9573台に急伸、2位のドイツに2倍以上の差をつけて世界首位を獲得、また英調査会社の調べでは21年の中国のEV生産台数は294万台(世界の6割)とのことだ。
中国勢が狙う市場はノルウェー等のEV先進国の欧州だけではなく、タイ等の東南アジアもターゲットである。最低価格を約76万バーツ(約280万円)とこれまでから2割値下げしたワゴン型EV車の販売を発表(中国車は関税フリー)。日系自動車メーカー最大手のタイ現地生産車より廉価で、中国でのEV生産コストは他地域の半分程度(日系部品メーカーの試算値)とのことだ。

中国EVの競争力の源泉が産業集積で、「規模の競争力」と呼ばれる。これまで系列を含む単一企業において寡占的シェアにより「規模の経済力」が効くことはあった。しかし、EV業界においてビジネスエコシステムの変化により、新たなプレーヤーを中心に中国内で構成される産業集積が奏功している。
代表例がEV車向け電池メーカー最大手の中国企業。世界首位を17年に奪取(それまでは日系企業が首位)、以降も3兆円近い投資計画の実行により生産能力を高め、正極材など主要材料の調達網も中国内に構築したとのことだ。

その他、EV車用部品メーカーも中国企業が中国内で集積している。域内サプライチェーンの完成である。SCMが域内で完成することによりリードタイム(計画・実行面)短縮、多岐にわたるムダの回避につながり、結果、「規模の競争力」を発揮している。先月のコラムで紹介した垂直分業から水平協業へパラダイムシフトした結果を表す言葉といえよう。

竹本 佳弘