サプライチェーンマネジメントの要素として、ブルウィップ効果というものがある。これは、小売で生じた需要変動が、卸やメーカーと上流に遡るにつれて増大する現象であり、結果として過剰在庫や欠品を招く事象である。この原因として、情報共有の欠如やリードタイムの長さなど、サプライチェーンの構造上の問題が起因するとされるが、実際には、発注を行う人間の非合理的な意思決定も要因として考えられる。そこで、ブルウィップ効果について、行動経済学の観点から考察してみたい。
まず、1つ目に挙げられるのが「アンカリング効果」だ。これは、最初に提示された数値などが基準となり、その後に続くものに対する判断が非合理的に歪んでいくという理論である。例えば、定価2万円の商品がセールで9,900円になると、最初に2万円という数字を目にしているために、9,900円が割安に感じてしまう経験はないだろうか。また、D.アリエリーによる実験では、ワインにいくらまで支払うかという問いに対して、事前に自身の社会保障番号の下2桁の数字を確認してもらうことで、より大きな数値の人の方が、より高い金額を提示したという。販売計画(需要予測)においても、「この商品の月販は100」と設定すると、仮に前月の実績が120、当月実績が130と続くと、あたかも需要が増加傾向にあるように捉えてしまい、「次は150かもしれない」と初期値を起点に過剰な上振れ予測をしてしまう傾向がある。
2つ目が、「情報オーバーロード」である。情報オーバーロードとは、「多すぎる情報のせいで、人は非合理的な行動をとってしまう」とされる理論である。発注業務では、1人の担当者が何百、時には千を超えるSKUを管理することもある。そのような状態では、例えば、受注数量が増加したことを理由に在庫を積み増すといったヒューリスティックに依存した判断や、卸からの発注数量の増加に対して、本来は卸による一時的な在庫積み増しが原因であるにもかかわらず、あたかも消費者需要そのものが増加していると誤解が生じやすい。情報オーバーロードは、こうした誤判断を助長し、結果としてブルウィップ効果を増幅させる要因となり得る。
3つ目が、「時間帯」によるものである。人は、一日の時間帯に応じて意思決定が変化すると言われている。例えば、その日の夕食を考える際、朝は疲労が少なく自制心が働くため、健康的な食事や自炊を選択しやすい一方で、夜になると短期的な快楽や手間の回避を優先し、ジャンクフードやコンビニ、外食を選択する傾向にあるとされる。ネットショッピングが深夜に売上が増加すると言われるのも、疲労などから衝動買いが起きやすいためと考えられる。発注業務においても注意が必要であり、疲労が蓄積している週末や夕方には、「とりあえず多めに発注しておこう」といった防衛的かつ感覚的な判断や、衝動的な発注が行われる可能性が高くなる。
次回は続編として、ブルウィップ効果について、なぜ在庫過多方向に振れやすいのかを、「認知のクセ」の観点から掘り下げてみたい。
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行動経済学で紐解く発注業務
SCM/ロジスティクス
2026年05月11日
