前回は、サプライチェーンマネジメントにおいて、ブルウィップ効果がもたらす欠品や過剰在庫について、アンカリング効果、情報オーバーロード、意思決定の時間帯といった行動経済学の観点から考察してみた。今回はその続編として、過剰在庫に判断が偏る発注担当者の心理的要因、人間の「認知のクセ」に注目してみたい。
まず、1つ目の要因が「損失回避バイアス」である。人は同じ金額の利益よりも、同じ金額の損失を大きく感じる傾向がある。発注業務において欠品は、売れたはずの売上や顧客の信頼をその場で失うこと、また、顧客からのクレーム、営業部門からの叱責など、喪失が明確で強く認識されやすい。一方で過剰在庫は、確かに保管費やキャッシュフロー悪化、値引き・廃棄などコストが生じるも、会計上は将来売れるかもしれない資産であり、且つ損失は時間をかけて発生するため責任の所在も見えにくく、損失と感じる欠品に損失回避バイアスが働きやすい。次に「現在思考バイアス」だ。人は将来の損失よりも、目の前の不安やプレッシャーを優先する傾向にある。その為、来月以降の在庫圧縮よりも、今日の欠品回避を選びやすい。特に、需要が読めない局面では、結果が読めない状態そのものにストレスを感じる「不確実性回避」も強く働き、「攻めた在庫削減」よりも「念のため現状維持」「少し多めに発注」という保守的な判断に流れやすい。在庫を薄く持つよりも、多めに持つことで心理的な安心感を得ようとするのだ。そして、それらを正当化する「確証バイアス」も働く。過去に大きな欠品トラブルを経験した担当者ほど、「欠品は致命的だ」「この顧客は欠品に厳しい」といった信念を強め、その考えを裏付ける情報ばかりを集めようとする。
もちろん業界や商品特性により判断が異なる場合もあるだろうが、注目すべき点は、サプライチェーンネットワークや計画系システムの誤りが問題では無いという点である。欠品の痛みを過大評価し、過剰在庫の痛みを過小評価する人間の非合理的な意思決定にあるのだ。そのため、在庫適正化には心理的プレッシャーの中で判断しなくて済むよう、KPI設計・責任区分・評価制度・発注ルールなど、発注担当者を取り巻く「発注環境」を整備することも重要なアプローチになるだろう。
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- 行動経済学で紐解く発注業務 -過剰在庫を生む発注環境-
行動経済学で紐解く発注業務 -過剰在庫を生む発注環境-
SCM/ロジスティクス
2026年07月13日
