日本経済新聞によると、6月の生コンクリート(以下生コン)の出荷量は前年同月比7.4%減、前年を下回るのは34か月連続だという。生コン出荷の鈍化の要因として、そもそもの需要量の低下(公共工事の減少)、建設現場の慢性的な人手不足、猛暑による工事中断が考えられている。建設現場側の状況に生コンの供給体制は非常に影響を受ける。
この背景には、生コン業界が持つ特異な構造がある。生コン業界は、製造業でありながら自社で物流も担い、そしてその全ての工程が建設現場の進捗や制約に大きな影響を受けるという、極めて特殊な三位一体の産業である。また、生コンはプラントで製造されてから約90分以内に現場で打設しなければ品質を保てない、完全受注生産なのだ。
しかし、建設現場は天候の変化や作業の遅延、近隣道路状況など、多くの不確実な要素に満ちている。そのため納品スケジュールは直前まで確定しにくい。加えて川上サプライヤーからの原材料(セメント等)調達も、突発的な需要のひっ迫にセメント引取り車の確保が追いつかないこともある。生コンのサプライチェーン全体が、川上から川下まで「計画通り進まない」現実と常に向き合っている。
このような環境下では、従来のSCM管理手法であるPDCAサイクルだけでは対応が困難である。そこで注目されるのが、軍事由来の判断プロセス「OODAループ」(Observe/Orient/Decide/Act)だ。生コン業界では、現場の状況や気象、交通情報をリアルタイムに観察し(Observe)、配車変更や製造開始時刻の調整といった判断材料を整理し(Orient)、迅速に意思決定(Decide)し、即座に行動(Act)へ移すことが求められている。こうした即応力の実現には、ゼネコン・生コン会社(協同組合)・セメント会社などによる業界横断の共通プラットフォームを構築し、情報の可視化と共有を行うことが望ましい。しかし施工現場ごとに関係プレイヤーが異なるため、即時の実現は難しいのが現状である。一方で、生コン会社が主体的に供給の安定化を図れる領域もある。その一例が、セメントや骨材などの原材料在庫をIoTセンサーで常時監視し、設定閾値を下回った際にセメント引取り会社へ自動でアラートを送る仕組みである。これにより、材料不足による製造停止を未然に防ぎ、輸送会社側の早期車両確保も可能となる。
外的要因に翻弄されやすい生コン業界において、計画通りにいかないことを前提に柔軟に動きながらも、確実にできる部分は確実に管理し続ける。生コン会社主導のOODAを活用した供給管理に期待したい。
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生コン業界におけるOODAループ活用
SCM/ロジスティクス
2025年08月08日