2024年4月働き方改革関連法の施行に伴い、トラックドライバーの時間外労働時間が年960時間に規制され、業界では様々な対応が進められてきた。その一方で、こうした制度変更の影響が比較的限定的とみられる分野もある。バルク車、タンクローリー、ミキサー車といった専門車両を扱う運送事業である。
専門輸送が大きく混乱していないように伺えるのは、業務構造そのものが今回の制度の影響を受けにくい為だと考える。例えば、取扱貨物の多くは工場間・基地間など決まった地点を結んでおり、セメントサービスステーションから生コン工場、石油供給地点からガソリンスタンドといった地域内で完結する運行が中心となっている。往復でも50〜100km程度に収まり、長距離輸送のように拘束時間が大幅に伸びる場面は少ない。
さらに、荷役作業の機械化が進んでいることも特徴的である。粉粒体はエアで圧送し、液体はポンプで注入するため、積みおろしの大半が機械によって行われる。一般貨物で課題となる「荷待ち」は発生しにくく、荷役が拘束時間に直結しない構造になっている。
加えて、専門輸送は荷主との関係が長期的になりやすい。セメント、石油といった商材は、年間を通じて安定した需要があり、配送先も固定されていることが多い。日々の運行が急に入れ替わる、スポット案件が連続するような状況は起きにくく、日々の運行管理は比較的安定している。
車両価格の高さや危険物取扱などの専門資格が必要な点も、過度な競争を防いでいる。参入者が急増しないため、運賃や仕事量が不安定になるリスクが比較的小さい。これらの要素が重なり、専門輸送は「今のところ大きく困っていない」という状況を生んでいる。
ただし、現状が安定しているからといって、専門輸送が構造的に優位というわけではない。ドライバーの高齢化や人材不足といった課題は一般貨物と同様であり、むしろ資格取得が求められる分、育成ハードルは高い。また、専門車両は一般車に比べて更新費用が大きく、設備投資の負担も軽視できない。
2024年問題が業界の姿を改めて考えるきっかけになったように、専門輸送もまた、次の課題へ備えていく必要がある。
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専門輸送と2024年問題
SCM/ロジスティクス
2025年12月01日
