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ゲーム機の品薄とサプライチェーン構造

 先月、任天堂からSwitch2が発売され子供たちの間で話題になっている。ただ、周りを聞くに、多くの家庭では抽選漏れし、入手できていない様だ。近頃は、人気のゲーム機が発売されるたび、品薄を狙った転売目的の買占めニュースをよく聞く。欲しい人の手にスムーズに行き渡るよう、より多く生産してくれればと思うが、発売開始後でしか、本当の売れ行きが分からない中、大量に在庫を抱えるのは企業としてもリスクが高いのだろう。また、ゲーム機の設計から発売日まで日数にも限りあり、部品の調達から製造までを鑑みると品薄にならざるを得ないのかもしれない。これは、任天堂だけでなく、プレーステーション(以下、PS)を販売するソニーでも同様で、新機種の発売の度、品薄が報道されている。ただ、2社の販売・出荷実績には異なる傾向がみられ、この要因としてサプライチェーン構造が影響しているのではと推察される。
 まず数量の違いだが、任天堂は、機種ごとに経過年ごとの販売数量にバラつきが大きいのが見て取れる。2年後の累積でDS 1,600万台、 Wii2,400万台、Switch1,700万台、3年後でもDS4,000万台、Wii5,000万台、Switch3,500万台と、機種によって様々である。一方のソニーだが、どの機種を販売する際でも、凡そ経過年数ごとの累積出荷台数は等しい数になる。例えば、PS2,PS4は、1年後に1,500万台、2年後3,000万台、3年後5,000万台、4年後7,000万台と推移している。PS5に関しては、初年度こそ半導体不足による減産が響き1,150台ではあったが、次年度は盛り返し同じく3,000万台まで回復、その後他機種と同様の数量が出荷されている。データが、任天堂は販売台数で、ソニーは出荷台数であるため、単純に比較はできないが、任天堂は需要に応じて出荷数量を柔軟に変動させているのに対して、ソニーは計画に従い一定数を出荷し続けていると見受けられる。付随するゲームソフトの販売本数にも影響することからなるべくゲーム機が世に出回る方が良いはずであり、生産台数に上限制約があるのでと思われる。そして、この両社の柔軟性の違いはサプライチェーン構造に一部起因しているのではと推察する。  
 任天堂の製造は自社工場を持たず製造委託(EMS)が中心だ。半導体も汎用性の高いものが使われていると言われ、その為、比較的柔軟に増産が可能なのだろう。以前、米中貿易摩擦の際には、中国からベトナムに製造拠点をシフトする対応も取れている。一方、ソニーも製造は同じく外部委託ではあるが、高性能を追求すべく自社主導設計であり、また、半導体も高性能品を利用。故に部品依存度が高く、急な増産時を行うのは任天堂と比べると弱いとされている。実際、2021年の半導体不足時にはPS5の生産が滞り出荷台数が3割程度ショートする結果となっている。
 同じ業界でもサプライチェーン構造の違いが、供給の柔軟性に影響を与えているケースを考察してみた。

出所:任天堂株式会社 連結販売実績数量の推移表
   ソニーグループ株式会社 “個人投資家向け IR資料

民谷 成