2025年9月の日本経済新聞によると、大手書店や出版社、取次、印刷会社など出版主要4業種がフランスを視察したという。背景には、「今、本気で動かないと本が消えてしまう」という危機感がある。フランスでは本を国民の「公共財」と位置付け、政府が出版業界に積極的に介入している。「反Amazon法」と呼ばれるオンラインでの書籍購入の際に、送料無料の販売を禁止する法律など、規制や補助金、調査支援、多様な手段で書店の存在を守り、過去四半世紀で出版販売額は約2割増加したという。
フランスの出版流通では、個人経営の書店が多数を占め、地域文化の拠点として機能している。流通モデルは書店が出版社や卸に発注して必要部数を取り寄せる「注文ベース」で、売れ行きを見ながら必要な量だけ仕入れる仕組みだ。一方、日本では大手チェーン書店が中心で、取次が書籍を一括管理し、全国の書店に「ばらまき配本」を行うことが多い。基本的には注文ベースではなく、出版社や取次の側が大量に配本するため、売れ残りは避けられない構造になっている。
日本の出版流通では、売れ残りは取次経由で出版社が受け入れ、再販可能なものは改装、そうでないものは断裁や廃棄へ回される。しかし、書店から取次までの返品に伴う輸送費やオペレーション負担は書店側が負うことが多く、経営を圧迫している一つの要因でもある。取次指定の集荷便を利用すれば書店員のオペレーション負担は軽減されるが、輸送費が高く、必ずしも安価な配送手段ではない。一方、書店が自主的に郵便や宅配便で返送すれば送料自体は抑えられる可能性があるが、梱包や持込作業の負担が増えるため、人件費換算での総コスト評価が重要になる。
返品は流通構造が変わらない限り避けられないため、物流の工夫による現場改善が不可欠だ。地域単位での返品集約や共同配送ルートの設計、一部注文ベース配本の導入など、書店経営への負担を軽減しながらコストを抑える手法が考えられる。
本を文化資産として守るには、政策だけでなく、物流現場での知恵と工夫も欠かせない
- HOME
- コンサルタントコラム
- フランスに学ぶ出版流通の再設計
フランスに学ぶ出版流通の再設計
SCM/ロジスティクス
2025年10月13日