TIC | 株式会社東京コンサルティング研究所

サプライチェーン・ガバナンス 4つのリスク

これまで、弊社が有事を機に再提唱したサプライチェーン・ガバナンスでは3つのリスクに言及してきた。
1つ目のリスクは、有事に強いサプライチェーンとして、中小企業含めたサプライチェーン全体の可視化と業界全体でのサプライチェーン・ガイドラインの策定等を提唱した。
2つ目のリスクは、情報リスク。サイバーテロによりサプライチェーンのチャネルキャプテン企業ではなく、情報セキュリティの不十分なサプライヤー企業をランサムウェアで狙うサイバーテロへの対策である。
3つ目のリスクはコロナ禍における外出禁止による工場労働力確保のリスクである。これはグローバルで同時発生したリスクであるため、代替地で対応することができない。このため、従前からの準備として、スマートファクトリー(生産の自動化)がさらに求められる。
そして今回、4つ目のリスクに言及する。労働環境(人権保護)のリスクである。日雑・化粧品メーカー大手はこのほど強制労働などの人権侵害がサプライチェーン上で発生していないか、取引先の調査を強化する。パーム油原料の農園数百万カ所を調べてシステム上で管理する。日本企業が人権対応を急ぐ背景には、海外、国内で進むルール作りがあるとのことだ。
欧州委員会と欧州対外行動庁は7/13、EU企業が事業活動とサプライチェーンの管理において強制労働に関与するリスクに対処するためのデューデリジェンス・ガイダンス文書を発表、ゼロ・トレランス(妥協なき取組み)を原則として、レッド・フラッグ(強制労働のリスク要因)に該当する要素が自社のサプライチェーンにおいて特定される場合、企業はより詳細なデューデリジェンスの評価を実施することが推奨される。
強制労働の存在が認められる場合、企業はサプライヤーやその他の事業関係者に対して是正のための行動計画を実施するように求め、必要に応じて資金的な支援も行う。こうした措置を通じて是正がみられない場合などでは、当該サプライヤー・関係企業とのビジネス関係を解除することも、適切な最終手段として考慮に入れる必要があるとしている。
また、日本国内においても、金融庁と東京証券取引所は6/17施行した「コーポレートガバナンス・コードの第2章:株主以外のステークホルダーとの適切な協働」において、地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇など、人権を尊重するよう求める規定を盛り込んでいる。
これまでも人権保護については米国靴メーカー大手の東南アジアでの労働環境問題等、個別取り上げられてきたが、今回はビジネス環境の変化として、グローバルでサプライチェーン全体の人権保護への対応を重視する動きが加速している。

竹本 佳弘